地中熱利用住宅って?
A【地表熱放散】
地中熱により地下5〜6mのところが一年を通じて暖かいことはわかりました。 ではそれ以上深いところはどうか、とい
うことでデータを見ていくと7m〜10mではほぼ1度程度の差しかなく、10mより深いところでは何mいってもほぼ同じよう
です。
ということであれば、地中熱を利用するにあたっては6m程度より浅いところを考えればいいわけです。 逆に常に同じ温
度の深いところより、冬は暖かく夏は冷たくなってくれたほうがありがたいわけですから、地熱を夏冬で十分利用できるち
ょうど良い深さというと3mから4mあたりであるということがいえそうです。
今度はもっと浅いところの土中温度を見てみましょう。
冬の1月、2月の一番寒いところのデータを比較すると深さ2mあたりまでは温度が低くて使い物になりませんが、3m
になってくると、5m以上深いところと比較してもまあまあ同等の値がでています。 難点は3月から5月にかけての春に
温度が降下してくることですがとりあえず一番寒いときはなんとかしのげそうです。
ところで、地表から地下1mまでの温度が地中3m以下と比べて極端に低いのは地表から冷たい大気に向かって熱が
放散してしまいどんどん冷えてしまうからです。 深いところにいくにつれて暖かい、というのはこの表面からの熱放散を
土の断熱性が食い止めるために、断熱材としての土が厚くなる深いところのほうが熱をよく保つからです。
ということは、地表に地中の熱が逃げないような断熱材を敷き詰めれば地中熱は地表から逃げていかず、地表付近の
浅いところの温度も、深いところと同じような温度になることが予想されます。
これは二酸化炭素の層によって大気から宇宙に熱が逃げなくなり全地球的に気温が上昇する、という地球温暖化の考
え方と同じですね。
ただしむやみに地表に断熱材を敷いてしまったら今度は太陽熱が地中に届かなくなってしまいますし、また建物周囲の
地面に断熱材が露出していたのではなにかと支障がありますので、建物直下の熱だけを地表から放散しないようにして
やればいいわけです。 その方法は建物基礎の外側に断熱材をはりめぐらし、地中熱の安定している深さ3〜4mあたり
まで筒状に下げてやることです。 そうするとその深度から建物基底面まで同様の温度となるはずです。
ところがこれでは採熱井戸を掘るのとおなじように(あるいはそれ以上)掘削のための費用や手間がかかりますし、地盤
も不安定になります。 そこで考え付いたのがまっすぐ下に伸ばした基礎周囲の断熱板を途中で外側に水平に折り曲げ
ることです。(ベント断熱工法) 基礎外周の地表面に断熱材を敷く方法もありますが、土の断熱性を利用できることや、
雨樋の排水管や植栽など、諸々の理由から基礎底板まで下げた位置に水平に断熱板をいれたほうが良いのです。
これであれば普通に基礎工事をする深さまで掘る手間だけですし、費用もかかりません。
地中熱は折り曲げた断熱板を回り込む形で移動しますので、土自体がもつ断熱性も併せて考慮すれば、建物直下の地
中熱を周囲の地表面に逃がすことなく効率よく建物基底部のコンクリート盤が受け取れることになります。
これに加えて、私たちはこの横に折り曲げた断熱板の下に蓄熱板をつくるアイディアを考えました。 普通、基礎を作る
ときは穴を掘った後に位置を正確に出すためや、基礎下面の鉄筋かぶり厚さを確保したり、寸法精度を確保したりするた
めにステコンと呼ばれるコンクリートを打ちます。 このステコンの厚さを外周部だけちょっと厚くしてやるだけなのですが
、これが蓄熱体となるので一石二鳥なのです。
地下からあがってきた地中熱はこの外周部の蓄熱体にも作用するわけですが、蓄熱されたあと今度は逆に地中に向
かって再輻射されます。
この2次輻射熱と本来の地中熱の合成熱が基礎外周に設置した水平断熱板下の土中に高温部を作り出します。
そうすると、建物の下の地中を取り囲むように高温部が生み出されますので建物中心部から外に向かっての熱勾配が
緩和され(つまり熱は水と同じように高いところから低いところへと流れますので、その勢いが弱まるのです)外へ熱が逃
げなくなるのです。
これによって比較的浅い深度でありながら、深いところまで断熱材を掘り下げて設置したのと同様な効果が生まれるわ
けです。
また、建物内部を高気密・高断熱することにより、この蓄熱したコンクリートを間接的に断熱することになりますので、建
物が建っている部分の地面全体が結果的には大気に対して断熱されるということでもあります。
また、実はこれには後日談がありまして、現在ではコンクリートではなく別なものを使っています。色々アイディアがあり
、そのあたりも現在特許申請中ですがバージョンアップをおこなっているところです。
ここで、中には北海道などで行われているスカート断熱とは違うのか?という疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれ
ません。
スカート断熱も似た形状で、比較的浅い位置に断熱板を設置してゆきますが、あくまでも基礎凍上防止のため凍結深
度の緩和が目的ですので、地域によってその深さや断熱板の巾が決められています。
これは北海道版の住宅金融公庫基準仕様書、フラット35の仕様書をみても明らかで、旭川だと巾何センチ、札幌だと
巾何センチというように決められています。
ところがこのベント工法による断熱は目的が地中熱の利用ですから、地域によって寸法が変化しません。
あくまでも地中3m以深の熱を周囲の地表から逃がさないようにするためのものですので考え方がまったく違うというこ
とが出来ます。
当然、寒いところでも暖かいところでも断熱板のサイズや設置位置は同じなのです。 また、その周囲の水平断熱板に
より遮られた地中熱による2次輻射熱を利用するということがまったく違います。 スカート断熱よりやや深い位置に設置
しますので副次的メリットとして水道配管等などの施工性もずっとよくなります。
このようにして私たちは地中温度の低い寒冷地で、まず地中熱をできるだけ逃がさないための方策のひとつをたてたの
です。
しかしながら、建物基底部のコンクリート盤が地中熱により暖められ(夏場は冷やされ)、蓄熱暖房の効果を発揮しはじ
めてもなお、前にも書いたとおり盛岡のような寒冷地では地中温度自体が13度前後しかありませんので地中温度18度前
後の関東以西のようにはいきません。
***【地中熱層】へつづく***