最近は住宅雑誌などでも、工事を計画する際は複数社から見積もりをとって比較検討するように、というアドバイスが必ず見られるようになってきました。

 確かにこれはドンブリ勘定のいい加減な業者や法外な値段を要求する悪質な業者をさけるためにもいい方法のひとつです。 しかし、いつもこれが一番いい方法かというとそうではありません。

 複数の業者から見積もりをとるということには3つの意味があります。 一つは見積もりによってその業者の技術レベルを見定めることです。 またもう一つは金額を比較することによって良い工事を適正な値段で行わせることです。 そしてもう一つはその会社の仕事に対する姿勢を推し量る材料とすることです。

 たとえば、金額を比較するということひとつとってみてもそのためには正しい見積もりを依頼しなくてはなりません。 正しい見積もりというのは、詳細な設計図と仕様書があってはじめてできるものです。 単に40坪の家を見積もってくださいと複数の会社に依頼してもまったく意味がありません。それは条件を統一しなくては比較の対象にならないからです。

 よく大体の見当をつけようとして「おたくだと坪いくらくらいかかってるの?」って聞く方がいらっしゃいます。その気持ちはわかりますが、その質問は、手ぐすね引いて待ち構えているセールスマンに「まってました」と思わせるだけです。 逆に良心的な業者ほど困惑してしまうものです。

 屋根ひとつとっても材料は瓦なのかトタンなのか、その瓦は本瓦なのかモニエル瓦なのか、下葺きの防水シートはどんなものを使うのか、野地板は松板なのか野地合板なのか、などなど・・・詳細の材料や施工方法を統一して見積もりしないことには比較のしようがありません。 設計屋さんに予めつくってもらった設計図や仕様書にしても、その内容は基本設計で図面数枚程度にすぎません。数十万円を払って本格的な実施設計書をつくってもらっても一般住宅では図面枚数が20枚をこえることはほとんどありません。 設計屋さんによってはそれを補完するために汎用仕様書というものを使いますが、これは他の工事へも使い回しができる一般的な仕様書であって、詳細な材料指定などはされてはいません。 

 また、詳細設計図や仕様書が与えられたとしてもそれを読み解くのはかなりの知識と経験を要しますので、建設業者によってはそれだけの技術レベルをもたないものもいます。 また見落としや、故意に見落として安い材料や施工方法で見積もってしまう確信犯的業者も多いのが現実です。
お客さんと契約さえしてしまえば、あとはなんとでもなると思っているからです。

 同じ条件で見積もってもらうということがいかに難しいことかがいくらかでもおわかりいただけるでしょうか? 各社から提出された見積もりを比較するというのはプロにとってもけっして簡単なことではないのです。

 また、一般的にお客様が数十万円をかけて最初から設計図書一式を用意することはまれで、ほとんどは簡単な間取りの打ち合わせと希望の聞き取り調査程度で見積もりを依頼してしまいます。
希望を伝えるにしても、カタログやパンフレットの写真を見ながら「このくらいの感じで・・・」で終わってしまうことも少なくありません。

 そうなると、見積もりを依頼された業者は概略の設計をするわけですが、概略設計といっても実際受注できた段階で建築基準法上建てることができなかったという事態になってはシャレにもなりませんから法的規制がかからないかなどを事前に調査しチェックし、構造上の検討や設備上の検討、さらには数量を拾えるだけの内装仕様書などを作成しなくてはなりません。そうしてできあがった設計図と仕様書をもとに経験を十分につんだ積算担当者が数日かけて原価見積もりを作ります。
 さらにそれに対して利益分やさまざまなリスク分の金額をどの部分にどれだけ上乗せするかを検討し、営業戦略的プラスマイナスを勘案してつくられた見積書がお手元に届く、というわけです。

 さてあなたならこの見積書にいくらの値段をつけるでしょう? 建設会社の営業や社長が「それじゃざっと見積もりをだしてみましょう」と軽くいいますが、内心はいうほど単純なものではなくて「これで受注できなければ赤字だな・・・」って思っているのです。 けっして見積もりはタダでは出てきませんし、契約書の金額の中にはこうした見積もり作成の経費が含まれているのはいうまでもありません。


 
念のために書きますが、見積もりを取ることや合い見積もり(複数社から見積もりをとること)が悪いと言っているのでは決してありません。 状況に応じて信頼できる業者であれば特命で指名して工事をさせたほうがうまくいく場合もあるし、複数社に入札させるより「このくらいしか予算がないからこれでやってくれ」という指値(さしね)でやってもらったほうがずっと安い場合も往々にしてあるということを知っておいても損はありません。



 個人住宅の設計料・監理料は予想していたより高く感じる方が多いようです。

 設計事務所や建築家などに依頼した場合の設計料金は、一般住宅では総工費の8%前後(5%〜12%くらい)、監理料が3%〜5%ぐらいが一般的なようです。(マンションやビルなどでは総工費が大きいので、設計・監理料は一般住宅の半分近くまで下がります)

 これがハウスメーカーや建設会社の場合だと「設計料は3%でいいです」とか「設計料はサービスします」などという話になったりする場合も多いですが、提携の設計事務所に頼めば当然費用がかかりますし、自社内の設計部で設計すれば人件費や経費がかかります。

 一般的にはこれらの経費はけっして「3%」とか「サービス」とかにはなりません。 設計・監理を担当する人間がカスミを食って生きているわけではない以上必ず工事費のどこかに上乗せされてとられることになります。

 それだったら最初から見積もりの中に設計料という項目で適正な金額が計上されていたほうがよっぽど誠実なのではないだろうかと思うのですが・・・・。

 また、設計事務所や建築家に工事の監理を依頼した場合は、建設業者だけではなく監理者である設計事務所や建築家も法的に瑕疵責任を問われることとなります。したがってそのリスク分としての料金が実際の監理経費に加算されたものが監理料の金額に反映されてきますので、設計料と監理料をたした金額が総工費の十数%にも達するわけです。たとえば2000万円の住宅における設計・監理報酬が200万にも及ぶとなると普通の建て主がしり込みするのは当然だとも思えます。

 しかし、TVなどで欠陥住宅問題の番組が放映されるたびに国民はどんどん心配になってきます。事実そういう悪徳業者が多いのもこの業界の特色でもあるからです。

 もちろんこうした風潮に呼応するかのように近年いくつもの消費者保護の法律改正が行われています。たとえば10年保証の義務付けとかですが、そのほかにも工事がちゃんと行われているかを第三者が監視するシステムが建築基準法上の中間検査などの形になってあらわれてきています。
そして、発注者である建て主自身も防衛策として、第三者の建築士に設計や工事監理をその経費が高いと知りつつも依頼することが多くなってきました。

 ただし、ここで私は断言しますが、関東以西の建築業者と比較して岩手の業者は概して非常にまじめです。当社に限らず、地元で長年営業している建築業者に悪徳業者といえるような会社はみあたりません。 あとは個々のセンスや能力の差とポリシーだけではないかと思うのです。

 もうひとつ、建設会社や工務店で設計と工事監理を行った場合は監理料は本当にサービスになる可能性があります。設計図どおり工事が行われているかを見るのが工事監理ですから、良心的な業者であれば設計と工事に食い違いがおきるはずがないからです。法的な手続きの手間と検査手数料のほかには経費がかからないからです。
 また以前は設計と工事を同じものが行うのは適正工事ができない恐れがあるから分業するべき(いうなれば性悪説ですね)、という考え方が強かったのですが、最近では工期や工事費の短縮・圧縮の有効性や、設計段階から工事業者が関与するほうがスムースになおかつうまく工事が進行する場合も多い、という考え方に変わりつつあります。
 多分に近年の公共工事などでの入札不調や人手不足からきている理由もあるのですが、元々の昔は大工の棟梁が設計企画から施工まで一手に引き受けていたわけですから依頼する業者の能力と良心を信じれば当然の帰結ということでもあります。

 そういった意味では、地元の良心的な業者にめぐり合えさえすればたいへんお徳に工事をすすめることができるということがいえます。
 



 見積もりなどを提出すると、「この諸経費ってなに?」ってよくお客様から聞かれます。

 工事金額の内訳は材料費や人件費・運搬費などの直接工事費、工事を行うための準備・水道や電気代・ゴミ処分などの仮設費、そして諸経費でなりたっています。 その諸経費の内訳は現場で実際にかかる保険料や税金・工事以外での人件費や事務費などの現場経費と会社を運営していくための社員の給与や交通費・事務費・広告費・税金などの一般管理経費です。

 この他に儲け分の金額がありますが、見積書に「儲け額いくら」と書くわけにはいかないので、それは材料費や諸経費、外注加工費など全般的にどこかの項目に広く薄くまぎれこまされています。

 とはいっても、この儲け=つまり利益率(粗利)ですが、ぶっちゃけた話、一般住宅建設においては、不動産屋さんなどの建売では利益率は30%程度、買い手が決まっている建売などでは20%代程度です。工務店などの注文住宅工事ではこれより低くて10%代になってきますし、これからさらに会社の一般管理費が引かれて、税引き後の純利益はせいぜい3%前後程度にしかなりませんから決して儲かる商売ではないことがおわかりいただけるのではないでしょうか?

 ただし、当然会社が大きくなれば一般管理費の部分のセールスマンの給料とか交通費、広告費、家賃・税金なども膨大なものとなってきますが、それを諸経費に計上したのではとてもお客様の理解をえることはできませんから別な分、つまり材料費や他の項目に紛れ込ませてしまいます。
いかに大量生産・大量買付けをすることによるスケールメリットがあるとしてもそんなのはすぐふっとんでしまいますから大きなハウスメーカーほど実は割高になってしまうのはしかたがないことかもしれません。ですからここで言っているのはそういう大手ハウスメーカーは除いた、地場の建設業者や工務店の話であることにご留意ください。

 それにしても諸経費の項目の中のほとんどの金額は実際に支出される純然たる経費であることをご理解いただければと思います。

 諸経費分を値引きしろという方がいらっしゃいますが、それを行うとまじめな話、会社の存続が危うくなるのです。 もしその部分で大幅な値引きを得られたとしたらどこか別なところに掛け値がしてあって、値引きは最初から織り込み済みであったことに間違いありません。
 あるいは資金繰りが苦しくて赤字覚悟で引き受ける業者もいるかもしれませんが、そういう危ない業者と契約することはお客様にとって利益にならないことは言うまでもありません。


 平均的な値引き巾、というのを私は知りませんが、まじめに見積もった金額であれば10%近く、あるいはそれ以上の値引きが出ること自体おかしな話で、かなりのボッタクリ見積もりである疑いをまぬがれません。あるいは最初から値引きの駆け引きということかもしれませんが、少なくとも私どものスタンスではありません。



 住宅を語るときに「どのくらいもつの?」という話によくなるのですが、構造材である柱とか梁などの木材は、杉材などでは伐採後150年ほど、ヒノキ材などでは250年ほどかけて徐々に強度をましてゆき、それからなだらかに強度が低下してゆきます。

 古くからの寺社建築が何百年ももっているのはそのためです。

 これが鉄筋コンクリートの構造物などの場合、寿命は70年といわれてきましたが、今ではその半分の40年程度で設計強度を下回ることがわかってきました。
 酸性雨ですとか大気中のガスによるコンクリートの中性化、あるいは建設時にコンクリートの材料である砂利や砂に海砂が使われたことなどの施工不良など、理由はさまざまですが木造建築物とくらべて著しく寿命が短いものであることが認識されてきています。

 かといって、一般の木造住宅が100年以上持つかといえば決してそんなことはありません。なぜかというと木材はある程度もつとしてもそれ以外の部分、基礎コンクリートや外装材(つまり外壁や屋根)はそんなにもたないからです。設備にいたってはさらに寿命が短くなります。

 もたない、というのには一般の日本人の住まいに対する考え方も大きく影響しています。
 昔から住宅は2,30年で建替えるものという前提が頭のどこかにあるため、ろくにメンテナンスをしないでしまうということが大方だからです。

 それに対して欧米では住宅は中古住宅を住み替えていくものという概念があるので、自分の収入や家族数が増えるにしたがって今までの家を売り、より大きな家に買い換えて行くことが多いそうです。
したがって家のメンテナンスは売る時の値段に大きく影響してくるので小まめにペンキを塗ったり修理をしたり大事に使うということが習慣的になされているわけですね。

 考えても見てください。 自動車などはこまめにワックスを掛ける人でも自分の家の屋根や外壁の塗りなおしなどは10年に1度すれば優秀なほうです。 どこか壊れて初めて修繕工事をする人が大半で、欧米人のように日曜日の休みごとにお父さんが家のどこかを修理していた、とかペンキを塗っていた、などということはおよそ日本ではみることのできない光景ですよね。

 自動車の鉄板ですら雨ざらしではこまめにワックスがけをしていないといずれはサビがでて穴があいてくるものです。 365日24時間激しい風雨や直射日光、おまけに地震などにもさらされ続ける住宅がこまめなメンテナンスをしないで100年ももつと考えるほうがおかしいことだといわざるを得ません。

 さて、ではどのようにすれば家を長持ちさせることができるかですが・・・。

 まず、住宅の一番の弱点はなにかというと湿気による木部の腐朽です。 これは雨じまいと結露の問題です。
 雨じまいは屋根の防水性能、結露は断熱と通気性能に左右されますので建築時にほとんど決まってしまいます。
 良質な設計と施工がおこなわれていれば問題がおきることはありません。 あとは10年に1度屋根の塗り替えをすることと、雨樋に葉っぱなどのゴミをためて水が逆流したりしないよう掃除をすること、そして定期的に点検して防水シーリングやコーキングの破損などがあれば小まめに修理することです。 コーキングなどはゴムですので経年変化で劣化し切れたり剥がれたりします。普通10年以上もちますが、条件がわるければ3年くらいで破損する部分もでてくると考えるのが無難です。

 次に、基礎のコンクリートです。 コンクリートは表面から徐々に中性化してゆきます。 本来、弱アルカリ性のコンクリートで保護することによって内部の鉄筋が錆びることを防いでいてくれるのですが、早いものでは10数年でコンクリート内部までアルカリ性が失われて鉄筋がサビ、基礎の強度が不足するケースが報告されています。
 一般的にこの中性化は1年に1ミリずつ進行するといわれていますので、鉄筋の外側のコンクリートの厚さが4センチあるとすると、さらにそれに仕上げのモルタルの厚さ1センチをたしても5センチですから50年で鉄筋に達してしまうことになります。これはひび割れなどもなく、良い状態に保たれたコンクリートの場合ですから場合によってはずっと短い時間で内部の鉄筋が錆びている状況があるのもうなずける話なわけです。
 建物がいくら丈夫でも、建物がのっているコンクリート基礎が弱くなってしまったのでは意味がありません。

 コンクリート構造物にはかぶり厚さというものが規定されていて、基礎外壁面においては鉄筋から4センチ以上の厚さでコンクリートが打たれいなくてはならないとされていますが、そういうわけでどうも4センチでは少なすぎるのではないかということが今では言われるようになってきました。
 大気中のガスとか雨水がコンクリート中に浸入しないように、コンクリートの厚さをもう少し厚くして作ること、そして基礎表面に仕上げ層をつくり、それがモルタルなどであればひび割れや剥離を点検し保守することでコンクリートの中性化も大幅に遅らせることができるようです。モルタルの仕上げ層があるかないかだけで10年以上コンクリート基礎の寿命が延びるという調査結果が出ています。

 また、基礎のうえから樹脂塗料を吹き付け塗装することもいい方法だと思います。
基礎の外断熱ではスタイロフォームなどの断熱板がコンクリートを覆うかたちになりますのでコンクリートが直接空気と接触するのを防ぎますからこれもコンクリート面の劣化を大幅に遅らせ長持ちすることが期待されます。

 最後に外壁の保守が耐用年数を決定づけます。
いま日本で一番多く使われている外壁材は窯業系サイディングです。 これはガラス繊維や木片などの芯材を圧縮したものに珪酸カルシウムなどを溶かし込み焼き上げて作った板に塗装をしたものです。
 耐久性は10年〜30年くらいです。 ほぼ自動車の塗装と同じ程度の耐久性と考えることができそうです。
 10年すぎたあたりから5,6年ごとに塗り替えをすれば申し分ないところですが、なかなかそれも大変ですので点検をしながら塗装面が劣化してきたようだったら塗りなおしをすれば問題ないかと思います。
 また最近は従来の外壁の上からプラスチックサイディングを張っていくという工法も注目されています。 ペラペラの薄いプラスチック板なのですが、軽くて撥水性が良いため手軽に外壁の防水性を確保できるようです。

 このような小まめなメンテナンスにより木造住宅は100年以上もたせることが可能ですが、むしろ実際にはその前に家族構成の変化やライフスタイルの変化が一つの家をそのまま住み続けることを難しくするのかもしれません。



 だいぶ昔の話ですがアメリカのBSE問題が発生して一時期、国内の牛丼屋さんから牛丼がなくなってしまった顛末はご案内のとおりですが、私はこれらのニュースを聞いていてふと「住宅業界もなんか似ているなあ」と感じてしまいました。

 吉野家の牛丼の肉がアメリカ牛のクズ肉だったというのも知りませんでしたし、私が大好きなコテッチャンもアメリカ牛とはしりませんでしたが、考えてみると牛肉を使っていてあれだけ安く出せるということは、輸入品でしかもアメリカ人にはほとんど需要がないものを日本にもってきて売っていたからだったんだなあ、とはじめて気がついたわけです。
 (戦後間もなくの学校給食に、アメリカで余った家畜の餌であった脱脂粉乳をミルクとして使っていたことを思い出すオールドマンもいらっしゃることでしょうが・・・)

 おまけにまともな検査をしていないにも関わらず「全頭検査は科学的でない」と突っぱねて日本に輸入再開をごり押ししてくる米国にも腹が立ちました。ましてや全頭検査までしている日本からの牛肉輸入を一切認めていないのではなおさらです。

 話はそれましたが、特別に安いものにはどこかに問題が隠されているということを言いたかったのです。(かといって高い値段のものが良いというわけではけっしてありませんが)

 住宅建築においては木材などはその代表かもしれません。 国内では木材価格が外材に押されて低迷しているせいで、山林の持ち主が山の木を切り出してふもとまで運搬し、製材所で木材に製材するコストを差し引くとほとんどお金が残らないため、木を切りだすことや木を育てることにすっかり意欲をなくしてしまいました。

 したがって住宅建築に使われる木材は今ではほとんどが外材、それも身元がわからない、今までは聞いたこともないような材種の木が使われるようになっています。
 これらはそのまま使われることもありますし、集成材の形をとることもありますが、強度試験などをしていたとしても長期的な性能は未知数です。 すでに柱などには向かないという評価が出始めているものもいくつかあり、責任をもってお客様にお勧めすることはとてもできるようなものではありません。

 農産物のように「何とか県何とか村の何とかさんがつくった大根」というようなラベルをつけた木材を使いたいところです。木材だけではありません。 大手ハウスメーカーに頼んだ住宅のように実際にはどこの誰が作っているのかわけがわからないようなのもほんとはユーザー本位とはいえないですよね。

 要するに出所がはっきりしたちゃんとした性能のものを使いたい、という欲求なのですね。 ただし有機農法の野菜などと同様、これはちょっと値段が高めです。 ひょっとすると倍の値段がするかもしれません。 それだけのお金を払ってでも欲しいかどうか、というところにたどり着くのです。

 アメリカ人のように「BSEの牛の肉を食べる確率は宝くじに当たるようなもの・・・ノープロブレム」といって安い肉を食べるのか、ちょっと高くてもいいから安全な国産牛を食べるのか?という判断は、最終的にはユーザー責任になり、自分で決めるしかないことなのですが、 ここでもう一つの考え方は、誰にでも予算というものがある以上、金に糸目をつけずにということはありえません。 一般的な常識の範囲内で、掛ける費用とそれにたいする効果のバランスを見ながら選択していくというのが賢明であることは疑いようがありません。

 さてこれを実際に行動にうつすとなると、注文する側にも高い見識が要求されるのは勿論ですし、真摯にそれにこたえてくれるビルダーを見つけるということも必要になってくるのではないでしょうか。 少なくとも「私はこうしたいんだ」というものを明確にしなければ、相手のペースに巻き込まれて、いつのまにかモヤモヤしたままで企画住宅のようなものを押し付けられてしまうということになりそうです。

 ぜひお勧めしたいことは、基本的に譲れないポイントをいくつか箇条書きでけっこうですから書き出してみて、それをご家族で練ってみるということです。 細かいことでの妥協はあるかもしれませんが、絶対あとで後悔するということはなくなると思います。



 最近テレビで人気のリフォーム番組ですが、ほとんど築数十年の古い住宅ですからかなりの構造補強が必要なはずですが構造的な補強をしている映像を見たことが一度もありません。
 これは非常に怖いことです。人があっと驚く改造をやってのけることがプロフェッショナルのあかしであるかのような風潮の蔓延をおそれます。

 大規模なリフォームではよくあることなのですが、使い勝手を良くしようとしてどんどん柱をとっぱらうような工事は、住宅の一番の目的である「命の安全」が後回しにされてしまうからです。
 いくら立派に体裁よくリフォームしたところで耐震性を含めた安全が確保されていなければなんの意味もないのではないでしょうか? まず構造的に安全な建物であること、次に健康的に安全な建物であること、そして使い勝手や見た目の改善というのがリフォームの順番であると考えます。

 またテレビで放映されるリフォーム工事はかなりの部分が営業戦略的なもので、請け負う建築家も工事業者も到底その値段では普通やっていない金額で請け負うと聞きます。 テレビに出ると名前も売れますし宣伝になるためです。
 テレビ局の方もそれは承知のうえですから、最初から赤字値段を提示しているようですから特別な金額と思って間違いなさそうです。

 いずれ構造をいじるような改造は前もって簡易な構造計算くらいはしておくべきですし、事前の調査が欠かせません。

 ところで、耐震補強をする場合の費用の目安ですが、業界最大手団体で提示している統一価格をみると、柱脚を補強する金物を取り付ける場合で1箇所10〜20万円程度を数箇所設置、あるいは間口3尺の壁を補強するするのに1箇所当たり20〜40万程度ということらしいですが、これはどう考えても高すぎる値段で、実際はせいぜいその半分程度が適正価格ではないかと考えます。 

 住宅の耐震補強業者はまだ数も少なく割りと新しい分野なため、2,3の業界団体が独占しておこなっており、専用の後付金物などはその団体の加盟業者にしか手に入れられないようになっています。
 もちろんこれは耐震補強工事を独占販売し利益をあげようとする価格維持戦略でしかありませんが、これを避けて適正な値段で耐震補強をするにはリフォームはちょうどいい機会でもあります。

 多くのリフォーム工事では床や壁をはがしたりしますので柱や土台などの構造体があらわになります。この状態ですと耐震補強金物なども1個数百円からせいぜい千円ちょっとの新築時につかわれる標準的なものが利用できますので、耐震補強団体が推奨する外付けの1箇所10万円もする金物補強なんかをしなくてすみます。

 リフォームを計画されているかたは、外見ばかりではなく普段は目に見えない構造体の部分の補強工事もぜひ検討されてください。 もちろん前もって精密な診断をして必要な箇所だけをすればいいのです。必要もないのに建物の4つ隅などを補強する必要はまったくありません。



 デザインの良し悪しはその建物の価値を大きく左右することには疑いありません。ただし、集客や販売を目的とした商業建築と長い年月同じ人間が住み続ける住宅建築とではおのずからその意味合いが違ってくるのは当然です。

 店舗などの場合はそのデザイン上の寿命は長くて10年といわれています。多くの場合、土地建物の使用は5年から10年を1区切りとして計画されその期間に収益を上げるために設計されるためですが、10年間同じデザインで続けることはほとんどの場合飽きられるため実際はもっとずっと短い期間で「リニューアルオープン」したりするわけです。また集客が目的の一つですから可能な限り特徴的な人目を引くデザイン、あるいは意表をつくデザインが好まれます。

 反対に住宅の場合は同じ人間、同じ家族が住み続けるため集客を考える必要がありません。商業建築と違って必要とされるのは飽きのこない普遍的なデザインであるということができるでしょう。

 よくデザイナーや建築家が使う言葉に「遊び心」というものがありますが、実は私はその言葉に違和感をもってしまいます。住宅にはたして「遊び心」は必要なのか?と。

 もちろん住む人間にとって家は食べるところであり、寝るところであり、遊ぶところですから遊びに対応できることは必要だと思うのですが、その形を他人のデザイナーが押し付けてしまっていいものなのか? 否です。
 たぶん、誰しも歳相応の遊び方っていうのがあるでしょうし、趣味にしたって一生変わらずにいるわけではありません。 設計屋さんがいう「遊び心」のデザインって、たぶん押し付けでありある狭い範囲の遊び心じゃないかなって思うわけです。 

 私の例を引き合いにだして恐縮ですが、私の趣味はアマチュア無線なのですが、二十歳代はウィンドサーフィンに熱中しまして、サーフボードを作る作業場まで作りました。その後は海釣りにはまりましたし最近はカメラにはまっていたりします。その度に無線ではアンテナの鉄塔や無線室を自宅につくったりサーフボードの製作場をつくったりしたのです。

 趣味一つとってさえ一生のうちにけっこう変わるものです。これが好みやライフスタイルとなると、学校や会社や仕事にあわせてどんどん変わっていかないほうがおかしいくらいで、家族となるとさらにその人数分だけバリエーションが出てきてしまいます。 各人の好みにぴったり合う家というのは現実には不可能に近いです。どこかで妥協せざるを得ないのですが、その最大公約数的デザインというのを考えると奇抜なプランは影をひそめ、基本的なところが抑えてあればあとはその時その時で対応できる
汎用的なデザインが優位になってくるということもいえるのです。

 趣味趣向の面からのデザインの話をしてしまいましたが、今度は具体的な話をしてみましょう。

 建築の外観デザインは流行がありまして、ご存知のとおり昔は下見張りやモルタル壁だったものがサイディングに取って代わり、そしてレンガタイル調になり、自然素材の板張りや珪藻土塗りになり、今ではまたモルタル調の壁に回帰し・・・というように洋服ほどサイクルは短くはありませんが数年のスパンで移り変わってきました。

 建物の構造は今では様々ですが、断熱や気密性能のことがわかってくるにつれて目指すところは大同小異、似たり寄ったりとなり予算の掛け方と設備の違いくらいの差しかなくなってきたともいえます。業者間の競争も激しくなりなんとか他社との差別化をしようということで手っ取り早くいきつくのはデザインをこねくりまわすことなのですが、昔で言えばコンクリートの打ちっぱなし・シナベニヤ張りクリア仕上げ・カウンターの多用、ちょっと前ならサンルーム・ウッドデッキテラス・トップライト、いまだったらさしずめカーブ屋根・キノコ屋根・アイランド型キッチン・珪藻土塗り・・・

 いずれ東京あたりのメーカーデザイナーが外国の住宅デザインを参考にしながら考えたデザインが関東より5年くらい遅れて盛岡の新築住宅でポチポチ見ることができるようになる、という流れになっています。

 当然地域性を考慮しないデザイン・・・たとえば広い屋根なし屋上やバルコニー(冬は雪かきが大変そう。防水は大丈夫?)/凍害による塗り壁のクラック/重量のために断熱材を厚くできない外断熱/コロニアル系屋根/etc、etc・・・など確かに最初の見た目はいいのですがトラブルが発生する可能性が非常に高いものがずいぶん目立つようになってきました。

 他にも実際に住んでみて違和感を覚えるデザインはいっぱいあります。
たとえば最近の住宅に多用される吹き抜け空間は空調に大きな負担をかけますので熱が上部に逃げてなかなか温まらないとか、高い窓に手が届かなくてガラス拭きができない、掃除ができない、照明の電球交換が簡単にできない、などの不便がでてきます。 そういったメリット・デメリットのバランスを考えていかないと長年住み続ける建物のデザインは成立しません。

 また近年、木を見せるデザインというのが脚光をあびているものですから、外部に板や柱をあらわしにした住宅もよく見るようになってきました。 当然、木は黙っていては腐るものですから何らかの塗装をほどこします。キシラデコールなどの耐候性の良い塗料などが多いですが、5年おきには塗りなおさなければなりません。はたしてこれを建築する側の人間としてお客様に求めることができるものか?・・・難しい問題ですね。
あるいは天然木のフローリング張り床。これもいいものです。ただし天然木はキズもつき安くいずれそったり隙間もあいてきます。手入れもある程度欠かせません。それをお客様に納得していただけるものか?・・・工業製品になれてしまって数ミリの誤差も気になる人間にはこれは無理なことかもしれません。
 納得ずくでそれでもふんだんに木をつかったデザインを求める方もいらっしゃいますが、何年もたってから「やっぱり失敗だった、あのときどうしてもっと説得してくれなかったんだ」という気持ちになられる方が多いのも事実だからです。

 よく「土地を探すときは気候の良い時ではなくて、一年を通して一番条件の悪い時に見て歩け」といわれますが、建物のデザインも最初の見た目だけでは決して決められない部分があります。はたしてこれが5年後、10年後、あるいは20年後になったらどうなのか、ということもちょっとだけ考えてみていただければ幸いです。


 最後に、バリアフリーデザインという考え方が現在では主流になっており、どなたも「老後のことをかんがえて」とおっしゃいます。 ところが老後に自分の家の中で寝たきりになるとか車椅子の生活になるという方の割合というのは実際には20%もいないそうです。 介護が必要になった場合は自宅ではなくむしろ病院や介護施設に入ることが多く、昔のように「死に場所は自宅の畳の上で」と希望する人さえその割合は減り続けています。

 こうしたことから、若いうちから家の中じゅう手摺だらけにするより落ち着いた、自分が楽しめる、要するに人生のクォリティを高める住宅が欲しいという考え方も最近では高まってきています。そしてその家の家族全員が自由に、あるいは学校や仕事の変化などがあってもそれに柔軟に対応することができることを真っ先に考えたデザイン=ユニバーサルデザインも現在では重視されるようになってきました。
 小手先の装飾的デザインよりもそういう基本的な部分がこれからは重要なのではないかと思うのですが皆様はいかがお考えでしょう・・・。




「オール電化」・・・なんとも耳に響きのいい、これも現代のトレンドキーワードですね。

 電気なくして現代の生活はありえませんから決して住宅の電化を否定するわけではありませんが、しゃにむになんでもかんでも電気に統一するというのは合理的ではありません。 もちろんオール電化という言葉はもともと電力会社が音頭とりして始めたことですのでそれもむべなるかなですが、たとえばガス会社はガス給湯器の優位性を一生懸命主張しますし、灯油ボイラーのメーカーは灯油の経済性を主張します。 最近では地中熱暖房やかんばつ材原料のペレットストーブ暖房なんてのもあります。 最近ではヒートポンプによる暖房も主流になりつつあります。 それぞれに長所短所があるのが当然で、そのうちのどれかだけが最良の選択というのにはかなり無理があります。

 ランニングコスト(燃費)に関しては電気本来の優位性は余剰電力を利用した深夜電力か暖房に限っていえばヒートポンプにしかありません。
 また安全性についても火を使わないということでよくガスや灯油に比較されますが、漏電やコンセント周りでの出火事故などの点では劣りますし、最近よく騒がれる電磁波被爆の点でもまだまだ安全を確信するにいたりません。

 深夜電力による暖房は当然蓄熱暖房になりますから日中、十分に暖かくてもその熱を夜のために残しておかなくてはなりませんから日中暑いのを我慢しなくてはならないケースもありますし、もともと熱容量が大きくないので出入りが多い場合や一日の気温差が激しい場合など、対応できないこともでてきます。 ヒートポンプは現在もっとも有効とされる暖房ですがエアコンと同じ構造ですからせいぜい15年から20年で寿命がやってきますし、氷点下の寒冷地域では熱効率COPが電熱線並みにおちてきます。その割にはイニシャルコストが高いとかデメリットもあります。

 一番心配なのは調理器具に使われる電磁IHヒーターですが キロワットという強大な出力は電磁波のことをいくらかでもかじった事がある人間であれば十分不安を感じるに足るものです。
 磁力線や電磁波は距離の二乗に反比例して弱まりますが、わずか出力0.6ワットの携帯電話でさえ頭のそばでつかえば白内障とか人間の健康に何らかの被害があることが疑われます。 IHヒーターは電子レンジなどとは違って、電波ではなく磁力を使うものですが、電磁波という名の通り磁力と電波は交互に誘導しあって発生するものですので携帯電話の数千倍の出力の調理器具がわずか数センチはなれたところで使われる影響を考えるとどうしても目をつむる気になることができないのです。

 これは普通の家庭でも使われる電子レンジにもいえることです。 1000ワット前後の出力のマイクロ波をつかって調理する器具が本当に安全なのかどうかがユーザーの立場にたってきちんと検証され説明されていないということは実はかなり恐ろしいことではないかと思います。 電磁波を電子レンジの外に漏らさないためにシールド板という金属板が設けられていますが、実はこのシールド装置はかなり厳重につくらないとちゃんとした性能を発揮できません。 売価数千円からの電化製品である電子レンジにそれだけの精度や構造を期待するほうが間違っているような気もします。

 少なからず漏れ電波があり、あるいは最初はよかったとしても長年その効果が保たれているかどうかはかなり疑わしいのではないかと思われます。 まじめな話、調理中の電子レンジをずっとのぞきこんでいたり、長い時間前にたっているのはお勧めしません。
 火を使うのとどっちが危険なんだ?といわれれば、使い方しだいとしかいいようがないのも事実ですが、目に見えないものだからこそ怖いということなんですね。

 ちょっと脅かすような話をして申し訳ありません。 便利なものは便利でいいのですが、オールマイティーというものはない、ということを言いたかったのです。 長い年月住み続ける住宅の設備はある程度の融通性があり、代替が利き、そして安全に不安があるものは使わない、というのがいいのではないかと思うのですが・・・・。

 もう一つ、「オール電化」という言葉にはセットになったものがあります。 それは「高気密・高断熱」です。 実は電化による冷暖房はパワーがありません。 高気密・高断熱が絶対条件なのです。それだけならいいのですが、最近ではこれに「外断熱」という言葉がくっついているもんですからこれがまた混迷を深めています。 なんでも新しい工法・やりかたは良いもんだという心理をうまくついて最近ではずいぶん売れているようなのですが、建築の専門家で自分の家を外断熱で作る人はまだ多くはいない、という事実が全てをものがたっていたりします。

外断熱に関してはいずれ別に書きますが、オール電化はあくまでも一つの可能性であって、現時点でのお勧めナンバーワンでは決してありません。 条件を限っていえばオール電化におのずと決まる場合もありますが、もっと冷静に適材適所で検討していきたいと考えております。

 先日、あるセミナーで携帯電話や電化製品などの人体への影響を調査・検定している会社の主任技師のお話をうかがう機会がありました。

 日ごろの疑問点をいくつか質問させていただいたのですが、電子レンジの人体への影響なども工場でつくられた時点での評価はするのですが、実際に何年もつかっていていろいろな条件下になった場合の評価はまったくおこなわれていないとのこと。

 電磁調理器などもメーカーが公表する磁力線密度は測定しても近くに金属があった場合の2次的な電磁輻射までは検証していないということでした。

 つまり、電化製品の安全性というのはメーカー側の言い分にそったもので、実際使われる際のさまざまな条件下での安全性確認というのはなされていないことになります。

 電化製品を売る現場でも商品の安全性を説明できる人はいません。
 あちこちのショールームなどにいってもコンパニオンは使い方の説明はしてもその構造や安全性に対しての質問には答えてくれません。メーカーのサービスの人にきいてもやっぱりわかりませんでした。 そりゃそうです。国の委託を受けてその安全性を検定している会社の主任技師でさえそういうデータはみていなかったのですから・・・・。

 携帯電話(スマホ)なんかでも5G、6Gでの影響はどうか?なんて話題も最近では出てきています。
実は先日、総務省のそれに関するセミナーにも参加しましたがとりあえず細胞レベルでの安全性は確保されているとの研究結果を聞いてきました。
 安全係数は50倍前後見ているらしいので、一般的な使い方での危険性は考えなくても良さそうです。 ただし・・・

 人間に与える影響の評価というのには長い時間がかかります。たぶん10年単位での時間が・・・。 いいとも悪いともいえないことですが、だからといってメーカーや電力会社の宣伝を鵜呑みにすることは避けたいものです。


 日本人のほとんどは神様・仏様を信じていません。あったことがないからです。

 信じていないのですが気にします。 ジンクスやタタリや呪いに関してもおなじです。
 あんまり信じていないといいつつも家には神棚があったり仏壇があったりします。

 正月に初詣にいき、お葬式はお寺に数珠を持っていき、クリスマスやバレンタインデーを祝い・・・・とにかくしっちゃかめっちゃかなのはご承知の通りです。

半数以上の方が地鎮祭や上棟祭をしますし、「信じてますか?」と聞くと「そういうわけではないけど、一応やっておかないと気持ちが悪いし・・・」という答えがかえってきます。

  そして建築するうえで私たちに一番関係してくるのが「家相」です。

 なぜかというと家の間取りがボロボロになることがあるからです。建築家の多くは「住宅設計を困難にする要素のひとつは【家相】である」といいますが、家相学のタブーをすべて守ろうとすると自由な設計ができないのは確かです。
 また、家相の良し悪しも人によって言うことが違ったりするので始末におえません。

 しかしもともと家相というのは経験からくる情報の集大成であったはずですから、耳を傾けるべき点も多くあります。 中国の風水が元になっている部分と、風土に根付く体験情報と、諸々の迷信が混然となってできあがっているともいえる家相もそれなりに筋が通っている部分はありそうです。 ですからすべてを否定するのではなく良い点は取り入れるというのが家相にたいする正しい向き合い方だと思います。

 ただし、昔の建物と今の建物では構造も性能も桁違いですから、体験からくる「古人の知恵」も、当てはまらないことがたくさんあることは承知しておくべきでしょう。
 家相に振り回されることなく、実際に生活していくうえでの利点と欠点を見極めたうえであれば【家相】のなかに潜む迷信でさえ精神の安定をはかる意味があるかもしれません。

 ほんとうのことを言うと、家相をみてもらってその通りに家は建ててみたものの、今では後悔している、とおっしゃる方はけっこういらっしゃいます。
 何年もたってから別の人にみてもらったら、家相判断が間違っているといわれたとか、どうしてあのとき忠告してくれなかったのか、とかいわれたこともありましたが、家相も信仰の一種ですから私たちが立ち入ることではありません。神様のお告げが絡んでくると、それに勝てる建築屋はいないのです。



 テレビを見ていると、どこぞの設計屋さんがデタラメな構造計算をしたという話題で一日中大騒ぎしているようですが被害にあった方、ホントご愁傷様です。

 私のところにも会社が加盟している団体等から構造計算書偽造物件概要などの情報が送られてきていますが、こんな人もいるんですねぇ・・・考えられないことです。

 しかし、構造計算が苦手な私ですらこの建物の内容をみると「どうして、検査機関や元請設計事務所や施工会社がおかしいと思わなかったんだろう?」と思ってしまいます。
 たとえば柱の太さ一つ見ても鉄筋コンクリート造のビルの柱なんていうのは5,6階建てでさえ60センチ角くらいの太さになりますし、これが10階建て以上ともなれば1m角くらいの太さにしないともたないなんていうのは、建築科の学生だって知っているくらいのレベルの話なんです。

 ましてやいくつもの現場を経験してきているプロであれば、構造計算書の結果がどうであれ、「あれ?なんかへんだな」って思うはずなんです。
構造計算に限らず、実はプロにとってはこの「あれ?」って感じることが大切なんですね。 
 素人の方には意外に思われるかもしれませんが、ビルのような大きな建物は構造が単純で構造計算もやりやすいんです。逆に木造住宅のような建物などはいろいろな要素が複雑にからみあっているものでコンピュータでの構造計算が非常に難しいため、より安全係数を大きく取り、経験値を考慮して材料の寸法を大きめ大きめにする傾向があります。

 このため手抜き工事をしない限り、大地震で高層ビルが倒壊することはあっても一般住宅は倒れないということをご存知でない方が多いですね。

 もちろんこの安全係数をどのくらいにするか、というのが一番難しいところで、今問題になっている構造設計屋さんも、「経済設計をする腕利きの建築士」という評判があったそうですが、限りなく安全な建物を設計するには限りなくお金がかかるわけです。
 極論すれば実用上危険でない程度に危険な(笑)、ぎりぎりの強度に構造設計するのが経済設計なわけです。

 話は変わりますが、構造設計には静定構造物と、不静定構造物という分け方があるのですが、静定構造物というのは橋などのように橋げたが落ちたり橋脚が流されたりどこか一箇所壊れると倒壊してしまうような構造物のことです。 対する不静定構造物というのは柱の1本くらい折れても倒壊しない構造物のことですが、もちろん建物はこの不静定構造物になります。
 しかし、一箇所が折れたり腐ったりすると、他の部分に余計な力が集中してしまいかなり危険な状態になることにはかわりありません。何らかの理由でどこかが損傷したときにそれでも初期の安全性をたもつために安全係数をかけておくわけですね。

 そしてこの「何らかの理由」というのが実にさまざまなのですが、一般の木造住宅に関していえば、木材自体の不均一性、つまり自然の素材を使うわけですから1本1本強度も違えば節穴もあります。 乾燥状態やシロアリの被害の有り無しなどもあったりして、ホントいろいろな要素が入ってくるわけです。 
 ですから構造計算上たとえば梁の太さは20センチあればもつ、ということになっていたとしても普通は25センチ程度で設計します。(私たちは、さらに2段階くらい太い30センチくらいの梁を使いますが・・・)

 ここら辺のさじ加減が経験がものをいう部分であり、構造に対する業者の考え方の違いが出てくる部分であるということができます。
 もちろん、安全係数を多く見積もるとその分材料はたくさんかかることになりますので費用は増えます。 しかし工事全体の金額からみればそれはたかだか数パーセントに過ぎないのです。

 さて、あなたならどうお考えになるでしょうか?



 家を建てようとするときにどこに頼もうかというのは誰しも迷われるところだと思いますが、普通は大手ハウスメーカー、地元中小ビルダー、地元の工務店、設計事務所のいずれかになるのではないでしょうか?

 施工会社を規模でわけるとなると、大手ハウスメーカーというとテレビでコマーシャルを流しているような大企業ですし、地元の中小ビルダーというと、建売などの不動産部門もあって年間取り扱い棟数が20〜100棟くらい、工務店だと年間棟数2〜20棟くらいというような感じになってくると思います。

 大手ハウスメーカーは専属のデザイナーを抱えて小洒落て一般受けする均質な住宅を提供してくれます。しかし販売棟数を稼がなくてはならないためどうしても没個性的なもので地域性に無頓着な商品になってしまいます。

 地元ビルダーや工務店は地域に根ざしていて、アフターケアも地元ならではのものですが、デザイン性に若干欠け、なんとなくやぼったいようなというイメージを持たれています。

 設計事務所はデザイン勝負の住宅を提供してきますが、工事金額に関してはあまりわからないので施工会社の見積もりに頼ってしまい、出来上がったらかなり予算をオーバーしてしまったというようなところが多分にあったりします。

 それぞれに特色もあり、ここがダメとかここが良いというようなものでもないのですが、その根本的な差は立場の違いにあります。
 どこに頼んで造ってもらったとしても良い点もあればデメリットもあります。
しかし目標とするところが違います。

 ハウスメーカーは利益を上げることが最終目的です。そのためには貪欲になんでもやります。 基本的なパターンの組み合わせにオプションで増えていく工事金額がそれを如実に物語っています。

 対して、設計事務所は素人の施主にかわって個性的な建物を建てる代理人であるという立場です。 ただし、「建築家は建て主の側にたって工事を取り仕切ってくれるため安心」、という主張をしてきた設計事務所も、そういう単純なものでもないということは構造計算偽造事件で認識を改められた方も多かったかもしれません。 実際の工事原価がどのくらいなのかわからない人も多いですし、当たり外れが大きいのも設計屋さんです。

そして工務店はピンからキリまでありますがその中間に位置しています。 

 いずれにせよ、最終的には「家という商品」の売り手と買い手という立場に立つか、または商品ではない「家」を、専門家の知識と経験を借りて自分で建てるという立場に立つかの2つにひとつなのです。

 大手のハウスメーカーはもちろんのこと、名前は工務店や設計事務所であっても限りなくハウスメーカー寄りの商人のような業者もいますし、逆に限りなく建て主よりの工務店や設計事務所もあります。

 そのどちらを選ぶかは建て主の選択ということです。この違いは基本的な考え方の違いですから大きいですよ。

 家を建てるのが面倒くさい人は間違いなくなく大手ハウスメーカーから完成品としての家を購入するべきです。  自動車を買うのとおんなじです。 りっぱなカタログも用意されていますので数ある商品の中から、希望のオプションをつけて金額もすぐにはじき出してもらえます。 ただしあくまでも商品ですから売り手と買い手の関係です。

 小さな工務店(名前は工務店でも実質ハウスメーカーもありますので)とか多くの設計事務所はお客さんの代理人として代わりに建ててくれるでしょう。 共同作品としての家という意識がありますからハウスメーカーと違い、お金を使わせることは基本的に望んでいません。 無駄な費用を削り、できるだけその家が立派になるような、快適になるような他のところに予算を回したいと考えるためです。
 しかし、お客さんである建て主にもそれなりの面倒をかけることは必至です。できるだけ細かいところまでお客さんと相談してつくりたいと思っているからです。
 できることならいっしょに遊びに行ったりお酒でも飲みながらその人の価値観や考え方を理解した上で仕事をしたいとみんな思っているとおもいます。

 ですから、自動車を買うようなつもりの人とは逆にそりがあいません。つまり例えば、どれだけ値段を叩けるか値切れるかと考える人はそういうところに頼むのはお門違いです。値切る相手が違うんですね。

家を建てる第一歩はそういう面でも最初から立場を明確にしておくということが必要ですし、お互いにお金と時間の無駄づかいをさけることができるでしょう。


 昨年1年間で、私たちが施工したリフォーム物件でも2件ほどシロアリ被害があったお宅がありました。

 シロアリといっても実はアリではなくゴキブリの仲間です。 姿かたちもアリのように頭・胴体・尻尾と3つの部分に分かれているのではなくて、ゴキブリのように頭と胴体というように2つに分かれていますので、アリとシロアリの区別はすぐわかります。

 日本には二十数種類のシロアリがいるといわれていますが、岩手県で見られるシロアリはほぼ100%ヤマトシロアリです。
 このシロアリは関西以南でよく見られるイエシロアリと違って、家をまるごと食い尽くされて倒壊するようなことはなく、被害も部分的なことがほとんどですから、あまり心配する必要はありません。

 シロアリが出た、といって気が動転してしまいあわてて得体の知れないシロアリ退治の業者に頼んでしまい、高額な金額を請求されたという話も多いようですが、どんどんシロアリが広がって家が倒壊してしまうようなことはありませんので落ち着いてください。

 生き物としてはたいへん原始的な生物ですので、「触ったものをかじる」だけです。
よくシロアリの嫌いなものとして銅板とか木酢液、ヒバ油とか炭などがあげられますが、実はこれらはあまり効果がありません。 シロアリを殺す毒でさえ基本的に「触ったものはかじる」のがシロアリだからです。 防腐防蟻処理された土台でもシロアリの被害は起こります。
 炭でさえかじりますから、最近あちこちの建設業者が「シロアリ対策」としてやっているのをよくみる炭の液を塗るというのも、効果のほどは疑問です。 土壌への薬剤散布なんかも人間に対する影響とシロアリに対する効果を考えればあまりしないほうがいいのではないかと思います。これは自然原料の薬剤であってもおなじことです。

 シロアリ業者がよく「床下が乾燥していないのでシロアリがよってくる」というのもウソです。
乾燥していてもいなくてもシロアリ被害は同様におこります。 よく浴室などの水まわりにシロアリ被害が出るのは直接土間に接し、結果的にシロアリの導入路ができやすいことと、水モレでふやけてかじりやすくなった部分がさらされるためだと思います。

 このように書いていくと、シロアリに対してはなにも打つ手がないように思われるかもしれませんがそうではありません。
 いくつものシロアリ被害を受けた現場をみていると、少なくともここら辺のシロアリはそんなに怖いものではないと感じます。 要は・・・

1.シロアリが家の中に入ってくるのを早く発見すること(アリ道をみつけたらすかさず対処すること。 発見しやすい構造にすること。)。
2.シロアリの進入経路となる部分をできるだけ造らないこと。
3.もしシロアリが進入したら、駆除できるような床下構造にすること。(土間コンクリートに直張り床のような床下にもぐれない構造は避けること。)
4.被害があった部分を適切に除去し修繕すること。(そんなに難しいことではありません)
5.直接進入してくるシロアリの巣を処理すること。

 必要な部分だけを処理すればいいのであって、シロアリのために家全体を薬剤処理するとか床下に大掛かりな換気扇を取り付けるというような必要はまったく感じません。 もし、そういうようなこと言う飛び込みのシロアリ業者がきたら要注意ですよ。


 高気密・高断熱という言葉は現代の住宅ではあたりまえのように使われていますが、ご存知のとおり、この言葉が頻繁に使われだしたのは高々10年前ほどに過ぎません。

 基準もまちまちで、一般的には隙間相当面積C値が5平方cm以下というのが高気密住宅と呼ばれています。 つまり、住宅の天井から壁から床から、すべての隙間をかき集めてその面積で割ったとき、1平方メートルあたり5平方センチ以下の隙間であれば高気密住宅と認定しましょう、ということです。

 実はこれは一般の2x4工法でなんとか実現可能な最低値でして、こういう高気密という技術基準を決めた委員会の思惑がかなり働いている気がしてなりませんが、とにかく当時日本の住宅のスタンダードを実質的に決定していた住宅金融公庫の建設基準が、「C値が5以下をもって高気密住宅である」としたことにより、ほぼ公的にはそういう認識になっているわけです。
 
 しかしその後、計画換気という概念が導入されたりしまして、また、カナダのR2000という基準が2平方センチ以下であったりしたことなど、諸々の理由から大手ハウスメーカー各社がほぼいっせいに高気密住宅=C値2.0以下ということを言い始めました。

 また、パネル工法(つまりエアーサイクル工法とかFP工法とかSW工法みたいなものです)を採用するグループ店などではC値が1.0を高気密住宅と規定するなど、営業上の差別化もあって高気密住宅と名打ってはいても気密性能が実質10倍も違うような状況です。

 「気密、気密っていうけどどうしてそんなことが問題になるの?」と普通の方は思われるに違いありませんが、その理由の第一は「断熱性能」に直結しているからに他なりません。

 家の中から熱が逃げる一番の原因は、ご存知ない方も多いのですが、「隙間風」なのです。 暖房した熱の半分は家の隙間から逃げているのです。 ですから二重サッシや断熱材にお金をかける前に隙間をなくし気密性能をよくすることで暖房効率が劇的に改善するのです。

 家の中の熱の5割が隙間から、2割が窓から、残りの3割が壁・天井・床から逃げているのです。 ですから猫も杓子も「高気密」と騒いでいるのです。

 となればもうお分かりですね? まず気密性能をせめてC値1.0以下にすること、次に断熱サッシを使うこと、最後に断熱材をちゃんと施工すること、ということです。

 その点だけをみれば昔ながらの在来工法は失格。 2x4工法も役不足。 グラスウールを使わないパネル工法か外断熱工法だけが合格で、できれば窓はできるだけ小さくし、引き戸ではなく樹脂製の開き戸が良い・・・という話になってしまうのですが、そうとばかりもいえないのが住宅建築の面白いところです・・・・(笑)。 まあ、とりあえず理屈の上ではそういうことです。


 外断熱という言葉が独り歩きしていますが、一般の住宅に関していうと外断熱という言葉はありません。 同様に内断熱という言葉も存在しません。

断熱材を柱と柱の間に詰めるか、柱の外側に張り付けるかの違いで、外断熱・内断熱と便宜上言っている人が多いというだけの話なので、正確に言うと、「断熱材の外張り工法」と「断熱材の壁体内充填工法」ということになります。

 また、目新しさを狙ってこの外張り断熱工法(以下わかりやすいように外断熱と書きます)が充填断熱工法(以下内断熱と書きます)よりあたかも非常に優れているかのように宣伝している会社も多いのですが、断熱性能についていえば外断熱も内断熱もかわりありません。 断熱材固有の断熱率 X 断熱材の厚さ で暖かさはきまってしまうのです。

 ですから、「内断熱は時代遅れ」とか「外断熱以外はダメ」とかという話をする人がいたとしたら、まずうたがってかかってください。 その人は外断熱を主力商品とするフランチャイズチェーン店の回し者か、実際には工学的に断熱のことをなにもわかっていない人のどちらかです。

 内断熱は一般的にグラスウールなどの綿を断熱材に利用していますが、材料の値段も安く、施工費も安いため使いやすい断熱工法です。 また、厚さも自由に変えることができ、十分な厚みを持たせることで非常に高断熱な建物を建てることが可能です。

 片や外断熱は板状の断熱材を使うことが多いので気密性能を上げやすいという利点などもありますが逆に柱の外に貼り付けるためどうしてもその厚みを大きくすることができません。
 結果としてせいぜい50ミリとか60ミリ程度の断熱材までしか使えませんので、十分な厚みをもつ内断熱より断熱性能が悪くなります。 また値段も割り高です。

 そのほかにも色々と利点や欠点を外断熱、内断熱ともに持っていますが、どちらかが一方的に優れているということはありません。

 高気密というとすぐに外断熱という言葉が出てきますが、ダメな業者がつくれば外断熱でも内断熱でも同じことです。 ちゃんとした施工をすれば内断熱でもまったく問題ない高気密・高断熱住宅ができますし、世界的にみると外断熱、外断熱と騒いでいるのは日本だけで、200ミリ、300ミリといった十分な厚みのグラスウールを使った内断熱工法のほうが、現在日本で人気のある外断熱よりずっと性能がよいということもいえます。

 では外断熱はまだまだダメなのか?時期尚早なのか?といえばそういうことでもなく、現実的に東北で厚さ100ミリのグラスウール断熱が平均的なことを考えれば60ミリで同程度の断熱率をもつ外張り断熱工法も十分考慮すべき範囲に入ってきますし、柱などの構造材を含めた蓄熱効果や気密性能などのメリットもあります。 内断熱と外断熱を併用した工法もだいぶ増えてきました。

 勘違いしている人も多いのですが、木自体は断熱性能がほとんどありません。柱や間柱の木部から熱はどんどん逃げてゆきますので、壁の中の充填断熱(内断熱)だけではやはり不利ということもあり、外張り断熱との併用が今後主流になってゆくと思います。

 それにしても、コストを含めた総合的で工学的な判断が必要なのです。

 職人というと「職人気質」などの言葉に代表されるような良いイメージも、逆に悪いイメージも持たれがちですが、現実には現代の住宅産業において職人という言葉はほとんど死語に近いものがあります。

 特に建売や売り建て系のホームビルダー、大手のハウスメーカーにあっては熟練工や職人を必要としません。
 「え?」 と思われる方もいるかもしれませんが、コストダウンと統一規格化を推し進めるとそこに職人が入り込む余地はどこにもないのです。

 大なり小なりどこかでコマーシャルをみかけるような住宅メーカーのほとんどは、社員は設計と営業と現場監督です。 実際に作っているのは契約社員と呼ばれる外部の下請け大工などですが、一応一人前にひととおりの仕事ができる親方大工ひとりに安い給料の助手が一人か二人で工事を行っているというのが平均的なところかもしれません。

 昔であれば床面積10坪あたり木材の加工が1人で1日(1人工と呼びます)の割合、そのほかに建て込み・造作工事が1坪あたり4人から6人程度というのが一般的な住宅に要する大工手間ということだったんですが、現在では木材の加工はコンピュータ制御によるプレカットマシーンで手加工の半分以下の金額、造作工事も昔の半分、ひどいところだと3分の1の金額しか手間賃が出ないというところもあります。

 これでは一人前の職人を使って建てるということ自体無理だというしかありません。
当然ながら一通りのことができる人間は現場には一人だけ、あとはアルバイトみたいなレベルの作業をする人間で現代の家は建てられていくのです。 これでまともな家が建つと思いますか?

 もちろん、現代では素人がちょっと練習したくらいでも家は建てることができるように全ては工場生産品の組み合わせで考えられています。 基本的にはノミもカンナも使わないで建てることが可能なのです。

 しかし、しかしですよ・・・  そこには職人の工夫も熟慮も経験も思い入れも盛り込まれることはないのです。 

 もし、あなたが家を建てることを計画したときにはその大工さんに道具を見せてもらってください。その大工さんは真っ黒に使い込まれたノミやカンナを持っているでしょうか?

 昔から日本の家屋は「夏をもってよしとすべし」といわれていましたが、もちろんこれは関東以西の比較的温暖な土地での話です。
 関東以西の比較的温暖で、夏に高湿度になる地方では軒庇を深くし風通しを良くすることが快適な家の条件だったわけです。 

 しかし、東北や北海道ではそうは行きません。 一年のうち1/3から半分は暖房が必要になる気候の地域において風通しの良い家より、秋から春にかけて暖かく過ごせることこそ最低必要条件になってくるからです。

 暖かくすごすために必要なものとして暖房を真っ先に思い浮かべますが、現代の暖房は昔のそれと違って、暖かくないことが求められます。

 「え?」と思われた方もいらっしゃることでしょうが、実は「暖かい」という感覚は「寒い」と同様、人間にとってストレスの一つだからに他なりません。 つまり、寒さも暖かさも感じない環境が人間の体にとっては一番やさしい環境だということが現代ではいわれるようになってきました。

 このため、暖房設備は従来の高温の風を噴出すヒーターやストーブではなく低温の輻射熱によってまんべんなくホンワカと暖めるものに変わりつつあります。

 よく室温が何度だ、という表現をしますが、空気の温度を測っても体感上の暖かさはわかりません。 建物内部の表面温度が実際の体感温度を決定するのですが、頭でわかっていても本当に理解している人はまだまだ少ないともいえます。

 暖かいと感じるか寒いと感じるかの体感温度は、人間を取り囲む壁・天井・床の表面温度の平均に空気の温度を足して2で割った温度であるといわれています。
 つまり、建物内部の輻射熱をあげるということが必要で、温風ヒーターなどで空気を暖めるだけでは底冷えのする建物になってしまいます。
 逆にいえば建物をちょうどよく暖めるための温風暖房器具では、体にとって熱すぎる温風を長時間あびなくてはならないといういうことでもあります。

 そこで、以前は床暖房などが快適だと言われていたわけです。
ところが床暖房はその名の通り床だけを暖めていますので色々と問題もでてきます。
 壁や天井の輻射熱が期待できないことや、床自体が熱で変形してしまうこと、床下空間を作りにくいこと、設備費やランニングコストが高くなりがちなこと、他・・・ 床暖房もだいぶ改良されてきてはいますが、今後主流になるかどうかといえばどうやらNOと言わざるをえないようです。

 現在、新築住宅で良く使われているものは、温水で暖めた空気を配管で全館に送る集中暖房システムや温水でパネルヒーターを暖めるというもの、FFストーブによる暖房、電気ヒーターで暖める蓄熱暖房機、そして電気ヒーターや温水回路による床暖房などです。 関東以西では良く使われる電気エアコンは岩手では効率が悪くてほんとの高断熱住宅以外では実質的にはかなり難しいといわざるを得ません。

 その中でもっとも有望と目されていたのが深夜電力による蓄熱暖房機あたりだったのですが、一般的な40坪程度の一戸建て住宅で1階に2台、2階に3台程度の設置が必要になり、設備費も100万円前後となります。 1台の重さも100kg以上、一度設置すると動かすのも困難で夏場は邪魔になるなど、欠点もそれなりにあります。 3.11の災害以降、原子力発電の見直しなどもあり結局はすたれてしまいました。

 また、蓄熱暖房にかぎらず、電気による暖房はあまりカロリー数が大きくありませんので高気密・高断熱の家が大前提になります。

 それほど高気密・高断熱を追及しないで、灯油ストーブや薪ストーブ、あるいはFFストーブをガンガン焚くという選択肢もないわけではありませんが、高齢化社会を迎えての室内温度環境のバリアフリーや、地球温暖化防止のためのCO2低減、石油価格の高騰という大潮流を考えればもうそういう時代ではないでしょう。

 いずれ、これからの暖房の基本は次の6つになります。 

1.熱損失の少ない性能の良い建物を基本とすること。
2.石油を使わず価格も政策的に安定している電気暖房を主とすること。
3.通常捨ててしまう安価な深夜電力や需要の少ない時間帯の電力を利用する蓄熱系暖房またはヒートポンプ暖房であること。
4.輻射熱を主とする低温暖房であること。
5.館内の空気を循環させ温度むらのない全館空調設備を使用すること。
6.構造ができるだけシンプルで故障が少なく安価で寿命がながいこと。


 先日、17年ほど前に新築された方から、建ててすぐの頃シックハウスの症状で苦しんだ、というお話がありいろいろとうかがってきました。

 ちょうどそのころにシックハウスという言葉が生まれ、社会問題化したものですから良く覚えていらっしゃる方も多いと思います。

 建材メーカーや内装壁紙などのメーカーでも急遽対応し、ホルムアルデヒドの含まれない材料に一斉に切り替えをおこないましたので、その客様のお宅でも建材や壁紙、接着剤などは問題がなかったはずなのですが、それでもそういう症状のお悩みがあったわけです。

 現在、住宅建築では建材・内装材・設備などではF☆☆☆☆認定という基準が義務付けられており、もちろんそれに即してすべて施工されています。
 また、お客様のニーズの高まりから天然系材料への切り替えもかなり進んでいて、たとえばビニールクロスなども紙クロスや塗り壁に、複合フローリングは無垢板張りに、とするお宅も非常に増えています。

 しかし最近認識してされてきたことですが、こうした天然系素材ですら極微量にですが有害物質を放出しているといわれています。
 また自然塗料においては施工後の乾燥中に化学変化によってホルムアルデヒドが発生することがわかってきました。
 また、多くの人が安全だと思っている自然塗料でも何十種類とある自然由来の成分を使用しているので、その全てをチェックすることも難しいことです。

 もともと自然塗料は乾燥が遅いため塗装後の換気も十分にとる必要があります。
東京都がテストした結果では約3週間でほとんど放散がなくなるということのようですから、そのくらいはかかるかもしれません。

 天然の木材ですら極微量の環境物質を放出しています。 たとえば、森林浴に良いとされるフィトンチッドですが、あれも環境物質の一種であるといわれています。

 前出のお客様は、入居後、2階をほとんど使わなかったためずっと締め切っていたとのこと。 その後換気を十分にすることを心がけることで症状が改善したそうですがいまでも換気に気をつけ、熱交換型換気扇を取り付けたほか冬場でも一日1時間以上窓を開けて換気をするように心がけているということでした。

 こうした、シックハウス症状は個人差があり、まったく影響のない人もいれば、十分基準値を下回っていても症状の出る方もいます。 また、建物自体から有害物質が出ていなくても、入居後に持ち込んだ家具などから多量に放出されていた、というケースも多いようです。
 また、シックハウスだと思っていたら実は使っていた加湿器の蒸気に原因があった、という報告もあったようです。

 とりあえずの基準としてホルムアルデヒドなどの有害物質の放出量を一定以下になるようにはなっていますが、実際には色々な条件の下でまったく有害物質がない、という建物は実際にはかなり困難なことかもしれません。 たとえ、測定器の値がまったくゼロであったとしても、人間の体は測定器以上に敏感だからです。

 そこで、できるだけ自然界に近い状態に家の中を保つためには、やはり換気が重要になってくるのはいうまでもないことですが、数年前に法律でも義務付けられるようになった24時間換気もまた問題が多い事例が数多く報告されています。

 法律で義務付けられる、ということは、「付けりゃいいんだろ」的なケースが非常に多いということも意味しています。
 家中の空気を効率よく排出するということはかなり技術的にも難しいことだからです。

 窓を開けるだけでは十分な換気はおこなえません。 機械で換気するにしてもその気流の流れを考慮して設計してあるかどうかは大きな分かれ目です。 法律で要求する、何平米あたり何台の換気扇、というようなものでは満足な結果が得られるかどうかはわかりません。

 例えば換気扇の排気ダクトの位置や形状によっても排気効率は著しく落ちてしまったりするようですので、それも知識と経験がものをいうところです。

 こうしてみるとこの「シックハウス対策」の話、まだまだ尾をひきそうではあります。 


 工期がどのくらいかかるかというのは、実際建てる方にしてみれば気になるところです。

 建て替えなどであれば仮住まいの期間にも影響して、それにともなう出費も当然かさんでくるわけですし、そうでなくても着工したら一日でも早く完成して入居したいというのは誰しも思うところではあります。

 実はこの「早く完成させたい」という思いは作り手にとっても同じことなのです。
つまり、工期が長引けば長引くほど、保険や足場代、人件費など他、諸々の固定費としてかかる経費が増えてくるわけですので、その分儲けが少なくなってくるので建設業者にとってみれば一層切実な問題になってきます。 工事代金の回収という意味からも出来るだけ回転が速いほうがいいのです。 ダラダラと工事をやっている会社は長続きしません。

 話は変わりますが先日、数社で競合入札した物件があるのですが、最終的に落札したのは当社より20%も安く入札した会社でした。 客観的に見ても他の会社が高かったわけではありません。異常にその会社が安かったのです。 
 実際、どうすればそういう金額がだせるか皆目見当が付かない金額でした。原価を割った金額よりさらに低いという・・・常識の範囲を超えていたのです。

 その後、その住宅は着工から2ヶ月で完成予定であることを聞きました。

 ちょっと待って〜〜ホントに工期2ヶ月??

 ・・・確かに以前、大手のハウスメーカーで建て替え60日などといって宣伝していた会社がありました。でもそれってほんとに工場生産のプレハブで、基礎も建物もブロックを並べて作るような構造のものでしたから、まあそれで良い人にとっては良いんだろう・・・ぐらいに思っていたのですが、もちろん通常の基礎工事、通常の住宅ではそういう短期間の工事と言うのは考えにくいですね。

 いや、常識を打ち破る新たな工法というのもひょっとして世の中にはあるのかもしれません。(私はまだ見たことも聞いたこともありませんが)
 でも物には養生期間というものがありますし、突貫工事でいい結果が出ることはまずありません。 

 ものをつくるという事はどんなものでもそうでしょうが、一段階作ってはその結果をながめて点検し、これでよかったのかと考えまた次の段階に進みます。
 特に住宅というのは、規格化された同じものを作るわけではないので、絶対にこの「考える」という工程が必要です。

 なーんにも考えないで機械的にバタバタとすすめていくと大きな落とし穴が待っていたりするわけで、ちゃんとしたものをつくろうとするとどうしてもある程度時間がかかってしまうのは避けられません。

 なんだか悲しくなるような話でした・・・。


 住宅の場合、どのくらいの人数でどのくらいのレベルのものを作るのか、ということを考えて発注するお施主さんはあまりいないようですね。

 ごくごく一般的な住宅の話ですが、昔は床面積10坪に1人の割合で職人を投入して、1坪あたり5人から6人くらいの大工手間がかかると言われたものですが、巷のホームメーカーの実態はひと現場に職人が一人。それにアルバイト程度の「手元」と呼ばれる助手を1〜2人つけて工期が3ヶ月くらい・・・  うーん、やっぱりまともな建物はできないだろーなー。

 建築現場を体験された方ならおわかりでしょうが、机の上で描いた設計図どおりにいかないことは毎日のように起こります。
 ある程度の経験も知識もある職人や技術者が、休み時間にお茶を飲みながらでも「ここはどうする」「あそこはこうしたほうがうまくいく」というようなことを毎日相談しながら仕事が進んで行ってはじめて良い仕事に結びつくということも言えるのです。

 午前、午後の一服の時間もほとんどは仕事の相談ばかりです。 はたから見てても仕事バカですねぇ。 

 自然・・・工事の時間も申し訳ありませんが世間一般の工期よりちょっとだけ長いかもしれません。


 高断熱の住宅というのは現在では当たり前ということになっていますが、実は断熱性能はピンからキリまで、広告に書いてある「高断熱」はまったく信用もできない二束三文の言葉となってしまっています。

 高断熱をうたっていても、20年以上前と変わらずグラスウールを10センチ厚で壁につめただけのものから、無暖房住宅と呼ばれる壁で30センチ、屋根裏で50センチ程度に断熱施工されたものまでその性能差は10倍以上です。
 また、断熱材の種類もグラスウール、セルロースファイバー、コルク、PET、ウール、スタイロフォーム、ウレタンやフェノール樹脂、etc・・・ 工法で言えば在来、2x4,2x6などの充填断熱、あるいは外断熱や吹き付け断熱など・・・  最近では断熱のほかにも遮熱なんて言葉もでてきます。 どれが良いんだか悪いんだかわからなくなってしまいますね。

 話はかわりますが断熱の難しいところは、空調と密接に結びついていることです。 よく高気密・高断熱の家を作りたいという研究熱心な意欲的な方であっても暖炉や薪ストーブを設置したいという要望を言いだすことがあります。 薪がチロチロと燃えるのを見ながら暮らすというのはあこがれでもあるのですが、こうしたオープン型の燃焼暖房器具というのは一般的に高気密・高断熱では成り立ちません。 

 高断熱には高気密と計画換気などの空調が欠かせないものですし、給・排気量が不確定な薪ストーブでは計画換気をおこなうことはかなり難しいことでもあるからです。 
 (もし、こうしたオープン型の暖房器具をどうしても使いたいという場合はまったく別な空調空間をつくって切り離すか、給排気バランスを完璧に行うよううまく設計しなくてはなりません。)

 つまり薪やペレットストーブなどを売り物にしている住宅の大方は高気密・高断熱住宅ではないと思って間違いないでしょう。(最近ではFF型のペレットストーブもありますのでそういうバランス型のものは別です。)

 また現在、高断熱を宣伝しているハウスメーカーのほとんどは壁で10〜15センチ程度、屋根裏で15〜20センチ程度の厚さで断熱材を施工したものですが、これは在来工法にしろ2x4や2x6にしろその構造的な制約からその範囲が限界に近いためです。

 たとえばこれを壁で30センチ、屋根裏で50センチ以上の厚さで断熱してほしいができるか?と施工会社に聞いてみてください。 「ただ壁を厚くするだけだから簡単です」という答えが返ってくるかもしれません。 しかし、そのあと「どうやって壁をもたせるか、各部の収まりはどうしたらよいか」などに思いがいたりかなり考え込むのではないかと思います。

 実際問題として、そうした高断熱を実際に実現するための技術的なハードルは意外と高く、それだけの知識や技術をもち、「大丈夫です」と即答し施工できる業者の割合というのはほんとに数少ないと思いますよ。 

 これは大工さんなど施工業者だけの問題ではなく、住宅設計のプロであるはずの1級建築士でさえ住宅の熱損失計算を手計算で行える人間が、そしてやったことのある人間がどれだけいるのかといえば・・・お寒い限りであることも事実なのです。 

 さらにこうしたハードルをクリアして実際に建築できた「無暖房住宅」なども、実際には無暖房では室温が15、6度にしかならずクレームが出ているというケースが随分報告されているようでもありますから、まだまだ問題も課題もあるというのが高断熱の技術なのです。

 さらにコストとのバランスもあります。
断熱性能を上げてゆくには断熱材だけではなく、窓の仕様などもグレードの高いものを使わなくてはなりませんし、今度は夏場のオーバーヒートの問題や換気空調設備の問題もあります。
 それらのグレードを上げてゆくには車1台分くらいの追加費用は優にかかってきますので、一点豪華主義に陥らず、全体のバランスを考えてゆくということも必要であろうと思います。

 住宅のクオリティーというのは断熱性能は勿論ですが、そのほかにも考えなくてはならない要素はたくさんあるからです。 ただし、後からでも取り替えることができるキッチンや電化製品などの設備と違って、断熱や気密に関する部分は基本的な構造に関係してくることですので修正がなかなかききません。 そうした面もふくめ、総合的に判断していかなくてはならないのは勿論ですね。

 再三書きますが建築とはバランス感覚です。 デザインや構造や設備やコストやその他もろもろの・・・。ですから「無暖房住宅」みたいなものを誰にでもお勧めするわけにはいきません。

 ただ、そうした知識や技術が背景にあってこそ一般的な断熱施工もしっかりとできるということではないかと思います。