地中熱利用住宅って?
【熱伝導方向のコントロール】
地中熱のパッシブ利用を考えるとき、関東以西と違って東北や北海道のような寒冷地で一番
問題になるのは土中の温度が低い、ということです。暖かい地域では地中温度が3m以深では
18度とか20度あったものが寒冷地では13度前後しかありません。
そこで人間が快適に住むことができる温度(この場合は輻射熱での温度です)20度前後との
差は7度前後あることになります。
温暖な土地では冬場の地中と床下の温度差がせいぜい1度、2度程度しかありませんので、窓
からの太陽熱とかエアコン程度、あるいは生活熱と呼ばれる人間が生活していくうえで発生する
煮炊きする熱や、人間の体から発生する熱、家電製品からの熱などで平衡状態に達することが
可能ですが、寒冷地ではそうは行かない、というのは誰でもすぐわかります。
そこで床下の補助暖房で地中の熱を底上げしてやる、という方法をとるわけですが、この補助
暖房の作り出す熱は、逆に地中との温度差でどんどん地中へと放散して逃げてしまいます。
この地中に逃げてしまう熱に対してどのように考えるのか、という答えのひとつが土間やスラブ
だけではなく地中も含めた大蓄熱層として考える、ということであったわけですが、こうした考え方
を可能とする理由は4つあります。
1、土自体が持つ断熱性により熱は地中に逃げていくのだけれども深くなるにしたがってその
割合が減って行く。
2、熱は熱抵抗の少ない方向、つまり結果的に上へ上へと移動する。
3、建物直下の土中から横方向に逃げる熱に対しては断熱板や、ベント断熱工法で対抗する。
4、建物直下の地中が冷えないよう、冬になる前から徐々に加熱する。
ということです。
また、暖房により床下のほうが地中より高温になった場合、地中と床下の土間の温度差が大き
ければ大きいほど地中の熱がその熱にブロックされて上にあがってこなくなります。 熱は水と同
様、高いところから低いところへと流れることを思い出してください。
そして当然ながら、冬場には建物直下の地中も含めて加熱しなくてはならないためスラブと地中
の温度差が大きくなるにしたがって大きな熱源が必要になってきます。
これは快適な温度に対する個人差も影響しますが、平均室温が18度でいいのか、20度なのか
24度くらいもないと寒いと感じるのかでは地中温度に対してどのくらいかさ上げをしなくてはなら
ないかその差が5度でいいのか10度以上なのかということですから、大きな差が出てしまうこと
は容易に想像していただけると思います。
ですからこの地中熱のパッシブ利用を寒冷地で行う場合、できるだけ低い温度に暖房をとどめる
というのが絶対必要条件になってしまうのです。
もともと、こうしたパッシブ型の暖房というのは、人間がそれにあわせてゆくというタイプの暖房
でもあります。 つまり、ちょっと寒くなったら1枚着込む位の心づもりがなければならないという
ことです。 エコというのはもともとがそういうものではないでしょうか。
真冬でもTシャツ1枚で南国気分でいたいという人には決して向かない暖房であることは間違い
ありませんが、そうは言っても地中熱のパッシブ利用において快適な室内温度は寒すぎることで
はありません。 暑くもなく寒くもない、なにも感じないというのが理想温度なのです。
個人差も考慮して、この「暑くもなく寒くもない」と思える温度にするにはどうしたらいいか、そして
その温度を確保するための熱源の燃費を向上させるにはどうしたらいいか、ということを考えるよう
になりました。
今までのパッシブ地中熱利用の工法でもとりあえずは床面温度20度前後で安定した温度となっ
ていますが、お住まいになっている方の個人差はいかんともしがたく、もう少しそのあいまいな点を
解消できるだけの余裕があってもいいのではないかと考えたわけです。
スラブ暖房の考え方からいけば温度は上げすぎず、できるだけ低い温度で使うことによって建物に
も人間にもそして燃費も良いシステムになるわけですが、そうはいっても人間の感覚というのは、
もっと幅があるということを何棟か建てているうちにわかってきたということでもありました。
ではそれはどうやったら実現ができるのだろうか・・・・と。
床下の土間やスラブの下に特殊な膜とか層があって、地中の温度のほうが室内より高い時は地中
熱を建物の土間へと通してくれ、逆に暖房をして土間の温度が地中より高くなったときは熱をまった
く通さずに断熱してくれる。 そしてついでに夏場に室内が暑くなったときはヒヤッとした地中の涼しさ
を土間に通して屋内を冷やしてくれるというような、そのときの季節や温度によって性質が変わるとい
う、魔法のような物質があればいいことになりますが・・・。
(実はもうひとつ頭の片隅にあったのはペルチェ素子のようにゼーベック効果をなんとか利用できな
いか、ということでした。 2種類の金属膜を張り合わせたものを土間に敷き詰め、電気的に熱の通
過を自由にコントロールすることはできないか、ということですがこれはとてつもなく費用がかかり、
とても一般の住宅に利用できるものではなさそうでした。)
そうこうしているうちに月日は流れたのですが、あるときちょっと閃いたことがあって、設備屋さん
にも相談したところ金額的にもあまり高価にならずにできそうだ・・・と。
で、考案したのが以下のような工法です。
断熱層をはさんで温水回路を上下2段につくり、その上下の回路をバルブでつないだり
切り離したりすることで、あたかも上記の魔法の物体のような効果をあげようというものです。
地中の熱を利用できる季節はバルブを開いて建物内に地中熱を呼び込み、厳冬期はバルブを閉め
て熱が逃げないようにする。真夏の暑いときはまたバルブを開いて床下の熱を地中に放熱させる、と
いうわけです。 また、この上下層間にヒートポンプを入れることにより地中熱を一方向にだけ集中的に流すことが可能となります。
前術で『季節により熱の流れる方向を自在に変えることができる魔法の物質があればいいのになあ』といったことが比較的簡単に実現できる
ことになります。
もうひとつの副産物として現在主流の空気採熱方式のヒートポンプ(エアコンみたいなものですね)の運転効率を寒冷地でも地中熱ヒートポンプ
並みにあげることができます。 地中熱ヒートポンプの多くは採熱井戸を掘削するという多大な費用がかかるためエアコン室外機のように空気
採熱が主流になっているわけですが、その費用がなくなるわけですね。
***【外断熱と屋内通気】へつづく***